大判例

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札幌高等裁判所 平成2年(行コ)5号 判決 1991年3月25日

控訴人

大場章寛

右訴訟代理人弁護士

横幕正次郎

被控訴人

札幌市教育委員会

右代表者委員長

牧口準一

右訴訟代理人弁護士

門間晟

右指定代理人

今井信一

大友鉄雄

遠藤正行

尾形英樹

長谷川裕

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。本件を札幌地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は次のとおり付加するほか原判決事実摘示第二のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目表四行目の「被告は原告に対し」(本誌本号<以下同じ>68頁1段30行目)の前に「控訴人は札幌市立中学校の教諭であるが、」を加え、同三枚目裏二行目の「一四日から」(68頁3段30行目)を「一四日を起算日として」に改め、同三枚目裏一二行目の「二九日から」(68頁4段15行目)を「二九日を起算日として」に改める。)。

1  当審における控訴人の主張

(一)  本件規則一八条に定める再審の請求は行訴法一四条四項にいう審査請求に当たると解されるべきところ、控訴人は平成元年一月一二日札幌市人事委員会に対し、本件規則一八条一項三号を理由として再審請求をしたが、同年三月二九日却下決定の通知を受けた。

控訴人は取消訴訟を提起すべく決意したが、法的に無知のため電話で同年三月三一日札幌地方裁判所民事受付係に本件の経緯を話し、出訴期限を尋ねたところ、同係から、それは同年六月二九日であると教えられた。控訴人は同年五月一日又は同月八日にも同地方裁判所に出向き同様に尋ねたところ、民事受付係は書記官数人と相談したうえ、控訴人に対し、出訴期限が同年六月二九日である旨を教えた。控訴人はこれにより同年六月二九日に本訴を提起した。

(二)  行訴法一四条四項は出訴期間を裁決があったことを知った日から起算すると定めているから、これによれば本件における出訴期限は同年六月二八日となり、出訴期間は不変期間があるから、控訴人はこれを一日徒過して本訴を提起したことになる。

しかし、右のとおり控訴人は法的に全く無知であったため、出訴期間について二度にわたって裁判所に問い合わせて、出訴期限は同年六月二九日である旨教えられたこと、しかもその際書記官数人が相談した結果控訴人に右のとおり教えたものであることからすれば、控訴人が出訴期間を一日徒過したことは、通常人として払うべき注意を払っていても避けられなかったことであり、控訴人には右出訴期間の徒過につき民訴法一五九条所定の訴訟行為の追完の要件である当事者の責に帰すべからざる事由があるものというべきである。したがって、本訴提起は適法である。

(三)  再審請求に対する却下決定が、再審請求が再審事由の主張に欠ける不適法なものであることを理由とする場合には、右再審請求は行訴法一四条四項の審査請求に該当しないものとすれば、人事委員会が、再審事由の不存在が明白な再審請求書を受理することを恣意的に引延ばすことにより、申立人をして出訴期間を徒過せしめることを可能にし、ひいては申立人に司法救済を求める途をとざすことになって、憲法三二条、七六条二項に違反することになる。これは法律の明文なくして当事者の権利を奪う結果になるから、再審申立てに対する決定において再審事由の存否につき実体的判断がなされたか否かにかかわりなく、再審請求は行訴法一四条四項の審査請求に該当すると解すべきである。

2  当審における被控訴人の主張

(一)  一般に、行政不服審査法上の再審査請求は、初審である行政庁で決定・裁決があったときに、上級の行政庁・審査庁に対して申立てできるものであり、同一行政庁に対して再度の審理を請求できるものではない。しかし、本件規則一八条は、一定の事情のある場合に、初審と同一の人事委員会に対する再審の申立てを認めているものである。この再審請求は、申立てが適法になされ、これに対する実体的な判断がなされたときに限り行訴法一四条四項にいう審査請求に当たるものとされているが、再審請求が不適法として却下されたときは右条項の適用の余地はない。

控訴人の再審請求には本件規則一八条に定める事由の主張は全くなかったから、適法な再審請求ということはできず、それ故、人事委員会も却下決定をなしたものである。したがって出訴期間は昭和六三年一〇月一四日から起算されるべきであるから、本訴は出訴期間を徒過して提起されたものであり、不適法である。

(二)  原処分をなした被控訴人と人事委員会とは別個の行政庁であり、人事委員会が被控訴人のために再審の受理を引延ばすことなどは考えられない。本件においても再審の受付後二か月と一七日で却下決定がなされ、控訴人が人事委員会の裁決を受けた後すみやかに再審の申立てをしていれば、却下決定がなされた後においても訴訟提起は可能であった。

また、控訴人が本件規則一八条所定の再審事由を主張して再審請求をしていれば、人事委員会としても再審事由の有無につき判断せざるを得ず、そうすれば、その決定を受けてから三か月以内に控訴提起ができたはずである。控訴人は適法な再審請求をしなかったために出訴期間を徒過することになったものであるから、その責任はもっぱら控訴人にあり、人事委員会に帰せられるべき責任はない。

(三)  仮に出訴期間を再審却下決定の日から起算すべきであるとしても、その期限は平成元年六月二八日である。控訴人は裁判所に出訴期間を問い合わせ確認したので出訴期間徒過の責任はないというが、裁判所の受付係に期間計算解釈の権限はなく、単なるサービスの一環として説明しているにすぎないものであるから、控訴人はそれのみを過信することなく他の法律専門家の意見も質すべきであって、控訴人の主張は期間徒過の責任をもっぱら裁判所の受付係に転嫁しているにすぎない。また、控訴人が法律に全く無知であったとは信じ難い。したがって、控訴人がその責に帰すべからざる事由により出訴期間を遵守することができなかったとはいえない。

三  証拠関係は原審訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本件訴えは不適法であるから却下すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表一三行目の「被告が原告に対して」(69頁1段1行目)の前に「控訴人は札幌市立中学校の教諭であること、」を加え、同五枚目表八行目の「記載及び」(69頁2段9行目)から同一三行目の「指摘するにすぎないものと」(69頁2段17行目)までを「記載はあるが、どの点が判断の遺漏であるのかの具体的な記載はないこと、本件再審請求書のその余の記載はすべて本件処分に対する不服申立てにおいて主張した事情を敷衍して繰り返し、また、自己の見解をもって本件裁決の事実認定と判断を非難するにすぎない記載であることが」に改め、同五枚目裏七行目の「本件訴えに」(69頁2段30行目)から同一〇行目の「本件決裁の」(69頁3段5行目)までを「本件再審請求については行訴法一四条四項を適用する余地はなく、出訴期間は控訴人が本件裁決の」に改める。

2  控訴人は、再審事由の存否につき実体判断がなされたか否かにかかわりなく、再審請求は行訴法一四条四項の審査請求に該当する旨主張する。しかし、行訴法一四条四項にいう審査請求は適法であることを要し、不適法な審査請求で不適法却下されるものは、ここにいう審査請求に当たらない。そして本件規則一八条に定める再審請求はそれが適法である限り行訴法一四条四項にいう審査請求に該当するといえるが、不適法である場合は同条項にいう審査請求に当たらず、同条項を適用する余地はない。本件再審請求が不適法なものであることは原判決に説示のとおりであるから、これにつき同条項を適用する余地はなく、本件における出訴期間の起算日が昭和六三年一〇月一四日であることは前記のとおりである。控訴人の憲法違反の主張は、不適法な再審請求であってもこれに対する却下決定がなされた後に提訴することを前提とするものであり、採用することはできない。

3  控訴人は出訴期間の追完を主張するが(もっとも、控訴人は出訴期限を平成元年六月二八日であることを前提として出訴期間の追完を主張するものであるが、出訴期間の起算日が昭和六三年一〇月一四日であることは前記のとおりである。)、控訴人がその責に帰すべからざる事由により期間を遵守することができなかったことを認めるに足りる資料はない。

二  よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、民事訴訟法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 磯部喬 裁判官 竹江禎子 裁判官 成田喜達)

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